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在宅医療という選択肢

  • 執筆者の写真: Togi Mizu
    Togi Mizu
  • 6 日前
  • 読了時間: 4分

精神症状が強くなった際、精神科入院を勧められることは少なくありません。


安全の確保や集中的な治療が必要な状況では、入院は非常に重要で、欠かすことのできない医療です。


一方で、訪問診療に長く携わる中で、状態や背景を丁寧に評価すれば、


在宅での治療継続が可能な方にも数多く出会ってきました。

 

そのことを強く実感したのが、コロナ禍での経験です。



当時、精神状態が悪化していても受け入れてくれる精神科病院はなく、


入院という選択肢が事実上、存在しない状況が続いていました。


行き場を失ったご家族が、やむを得ず施設入居を選択されるケースも少なくありませんでした。


本来、病院と施設は役割が異なりますので、


精神症状が強い状態では、施設側が受け入れを見送ることも多いのが現実です。


そのような中で、受け入れを決断してくださった施設から訪問診療の依頼を受け、診療に関わることになりました。


施設内でもクラスターも発生し、医療・介護ともに非常に厳しい状況でした。


家族や施設の方と話し合い、必要性を慎重に判断したうえで、


通常は施設では行わない向精神薬の筋肉注射や


抗うつ薬の点滴静注を行いました。


このような対応を病院外で行ったのは、後にも先にもこの時期だけです。


治療の結果、例えば重度のうつ病で食事がとれず、一時は看取りも想定されていた方が


食事や歩行が可能なレベルになるなどの改善がみられました。




もちろん、これは結果論です。


リスクもあり、決して理想的な経過を保証できるものではありません。


(なお、この方々については、入居前に内科的検査を行っており、

明らかな身体疾患がないことを確認した上で対応しています。)


この経験を通して強く感じたのは、


状況を正確に評価し、十分な説明と合意があれば、


従来は選択肢に挙がらなかった治療の形も成り立ち得る、ということでした。

 



また、認知症の周辺症状(BPSD)や精神症状は、疾患そのものだけでなく、


環境の変化や生活リズム、人との関わり方によっても変化します。


住み慣れた環境の中で、医療と介護が緊密に連携し、


薬物療法と環境調整を並行して行うことで、


入院を回避しながら症状が安定するケースも確かに存在します。



在宅医療は、「簡易な医療」でも 


「入院の代替」でもありません。


状態を見極め、精神症状と身体疾患の両面に専門的に対応し、


ご本人・ご家族・支援者と十分に話し合いながら進める、適格な判断と責任を伴う医療の一形態です。



 

精神科への入院について、もう一つ気を付けていただきたいことがあります。


それは、入院という選択が、家族関係にも影響を及ぼす可能性があるという点です。



入院後になって、実は入院に反対だったというご家族の一部の方や、


遠方に住む、日頃の介護状況を十分に知らないご家族から、


「なぜ精神科なんかに入院させたのか」といった声が上がり、


家族内で深刻な対立が生じてしまうケースがあります。


多くの場合、それは誰かの善意や不安から出た言葉です。


しかし、事前の説明や合意形成が不十分なまま進んでしまうと、


結果として、最も近くで支えてきたご家族が孤立してしまうことがあります。



これは高齢者の精神医療に特徴的なことですが、


ご家族が、これまで社会や家庭を支えてきた「しっかりした人」というイメージを強く持っているために、


精神科に入院、という事実を受け入れることに、時間を要する場合があります。


これは理解不足ではなく、


その方の人生や役割への敬意から生じる反応であることも少なくありません。





そのため私たちは、入院・在宅いずれの選択においても、


関係するご家族と十分に話し合うことを大切にしています。


治療の場を決めることは、単なる医療判断ではなく、


その後の生活や人間関係にも影響する重要な決断です。


だからこそ、「何が医学的に可能か」だけでなく、


「誰が、どのようにその決断を支えるのか」まで含めて考えることが必要だと考えています。



在宅医療は、状況によっては、ご本人だけでなく、


ご家族を守るための選択肢にもなり得ます。


入院を否定するのではなく、


「その方とご家族にとって、今、最善の場はどこか」を冷静に、


そして丁寧に考える医療を私たちは大切にしています。



もちろん、入院したほうがメリットがはるかに上回ると判断できる場合は、


迷わず入院をおすすめします。


(東儀)

 
 
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